しばらく森の中をふらふらとさ迷う。
と、言ってもまだ片手で歳の数えられそうな少女の小さな足で進む一歩は小さく、非常に微々たるものではあるのだが。



「…?」


歩くうちに、足元の草には少しずつ苔が混ざり始め、気が付くと足元はふかふかとした苔に覆われ、うっすらと漂う霧が頭上から差し込む光の姿をあらわにしていた。

どこかで水の流れる音が柔らかく辺りに響いている。
水気と土の匂いを含んだ空気は少しひやりとして、夜気の名残を感じさせた。




ふと、

歩く先に木々の開けた場所を見つけ、同時にそこにある生き物の気配を少女は敏感に感じ取る。


警戒ではない。
少女はゆっくりと、柔らかい苔の上をふわふわと歩いて行った。





そこにいたのは大きな沈黙だった。

腿の発達した山羊のような蹄を持った下半身、黄土色の中毛に覆われた狒々(ヒヒ)のような上半身は前屈みになっていて、少女に背を見せるようにして岩に腰掛けるその肩やタテガミを蓄えた頭に生える水牛のごとき太い角には小さな小鳥達が沢山羽を休めに留まっている。



少女の頭の高さまである岩を小さそうに座るその背は、ぴくりとも動かずそこにいた。