楽屋の中には幸い誰もいなかった。
ドアの外からは、ウシオと彼女の楽しそうな会話が聞こえてくる。
ふたりがどんな話をしているのか気になった私は、
悪いとは思いながらもドアの内側にぴたりと片耳をくっつけ、彼らの会話を聞かせてもらった。
すると、
聞こえてきたのはこんな話で…。
〈…お花とお菓子、マユコさんに渡してきたよ〉
〈悪かったな、お前にこんなこと頼んでさ〉
え…?
〈別にいいけど、ウシオって、ホントマユコさんにやさしいんだね〉
〈何?サキ、妬いてんの?〉
〈…ちょっとね〉
〈なんだよ…。言っただろ?マユコに花束渡すのは、あいつ今回チョイ役で、もしかすると誰からももらえないかもしれないから、やさしい俺が一芝居打ってやろうと思っただけだって…〉
何…?
“一芝居打ってやろうと思っただけ…”?

