一つ一つを聞きながら笑ったし、おれは本気で泣きたくなった。

同時に、ますます翠のことを好きだと思ったし、心底惚れ込んだ瞬間でもあった。

おれと翠は何かの運命に導かれて出逢ったんじゃないかな、なんて自惚れたりもした。

守ってやりたい。

心底思った。

翠を守り続けた、翠が大好きだった彼のように。

「補欠、今度はゆっくり遊びに来な。たいした家じゃないけどさ」

「はい、じゃあ今度。練習が休みの日にでも」

と言い、おれは南高校から5分弱のところにある、小さく閑静な住宅街を後にした。









胸がいっぱいで、家に到着した時には張り裂けているんじゃないだろうか。

引き返す夜道にシャアシャアと、車輪が回る音が響いた。

夜風に揺れるワイシャツの裾は、翠の鼻水が付着したままだった。

「汚ねえなあ」

と呟き、でも、おれはついつい笑ってしまう。

月明かりが、夢中で走る自転車とおれをぼんやりと照らし出していた。

まるで、淡い色のスポットライトを浴びているような、不思議な気分だ。

道なりに列なっている街路樹の葉が、秋の乾燥した夜風にカラカラと芯のない音を奏でていた。

おれは夢中になって、自転車を走らせた。

頭の中では、さえちゃんが教えてくれた幾つもの言葉達が、走馬灯のように駆け巡ってばかりいるのだった。



―翠はね、本当はひどいネクラだったんだよ―



―ある日を境に、滅多に泣かなくなったけど。昔はひどい泣き虫でさ―



―翠はお父さん子なの―



―お父さんと結婚するのが夢だったの。けっこう、可愛いとこあるでしょ―



―あんた達が通ってる南高校は、翠の父親の母校なんだよ―



―入学式の帰り道で、翠が言ったの。お父さんよりもカッコいいの見つけたって―



―そいつの名前は、夏井響也―



―翠が泣いたら、迷わず抱き締めてやってよ―



―あの子、お父さんに抱っこされたり、抱き締めてもらうのが好きだったからさ―


「ああーっ……」

おれは殺風景な道路の片隅に自転車を停め、夜空を見上げた。