「お疲れ。結衣、明里。バスケ以外の種目は勝ち進んでるんだけど! あんた達、弱すぎ」

やっぱりあたしが居ないと駄目ねー、と翠は豪快に笑った。

いつも通り、今日も窓際の一角は賑やかだ。

人もまばらなすかすかの教室。

平日の午前なのに、かなり珍しい光景だ。





球技大会

各自、種目別に行動すること





学級委員長の達筆な文字は、白いチョークで黒板に威風堂々と綴られている。

おれの右隣の席にはジャージをだらしなく着こなしている健吾が居て、なおもだらしなく机に寝そべっていた。

「健吾、10時になったらグラウンド行くぞ。次、おれ達のクラスだ」

9時半を回ったばかりの壁時計を見ながら、おれが揺すり起こすと健吾は珍しくだらだらした口調で言った。

「おう。あー……だりい。昨日、夜更かしして寝不足なんだよ」

「もう9時半過ぎてるんだぞ。シャキッとしろよ」

「分かってる」

ぐああ、とトトロのような大口を開けて、健吾はあくびをした。

ざわめく校内の隅にあるおれ達の教室には勿論、教卓がある。

教卓の右端には白く小さなかすみ草が、花瓶に生けられゆたかに咲き誇っている。

透明なビードロのような硝子細工の花瓶から、たっぷりとこぼれ出していた。

「健吾、夜更かししてエロビデオでも観てたんだろ」

と翠が健吾をいじり始めた。

「観とらんわ! アホか! メジャーリーグの録画してたやつ観てたんじゃ」

「とか言って、本当はエロビデオ観て寝不足なんでしょ!」

「観てねえよ! うるせえなあ」

「やーいやい! スケベ健吾」

翠におちょくられ、健吾は力尽きたようにがっくりと肩を落とした。

今日も見事な惨敗だ。

「もう嫌……助けてくれよ、響也ちゃん」

「いや、無理だ」

力尽きて半分泣きが入っている健吾と、ここぞとばかりにげらげら笑う翠トリオのやり取りを見て、おれは笑うしかなかった。

幼稚園児の争いかよ、と。

そんな中、バタバタと足音を立てて長い廊下を駆け抜け、おれ達の教室に飛び込んで来たのは、マネージャーの花菜だった。