太陽が見てるから

5イニングをなんとか投げ切って、呼吸を整えて集中力をとぎらせぬようにしていたのに。


「悪い。集中さして」


腰を上げようとしない汗みどろのおれのところに来て、イガが無理やり引っ張り連れ出した。


「集中力? そんなもん、あとにしろ」


「何だよ」


おれが顔をしかめると、イガはおれの背中をバシーッと叩いた。


「なにそんなにヘロヘロしてんだよ。意外と体力ねえなあ」


「うるせえなあ」


きつい陽射しを手で遮りながらダッグアウトに戻ろうとした時だ。


いきなり、勇気が後ろから抱きついてきた。


「夏井先輩!」


いや、抱き着かれたというよりは、後ろから羽交い締めにされた。


「何だよ、勇気」


「ご指名っすよ」


「はあ?」


「あの女の人が、夏井先輩を指名してますけど」


そう言って、勇気は応援スタンドを指差した。


眩しい。


高いフェンスからきつい陽射しが射し込んでくる。


顔をありったけ上に向けて、スタンドを見つめた。


すごいギャラリーだ。


「夏井くん! 夏井くん!」


高い高いフェンスから、懐かしい声が降り注いでくる。


「夏井くん!」


スタンドをぎっしりと埋めつくしている応援団たちが左右にはけて、一本の狭い通路を作った。


「夏井くん!」


その人は通路を素早くかけ降りてきて、ガシャンとフェンスに張り付いた。


目を細めて、その人を見つめた。


「あ……若菜……さん?」


「夏井くん!」


おれたちを見て、応援団が何事かとジロジロと見ていた。


若菜さんは相変わらず美人で、長い髪の毛はボブになっていた。


「応援に来てくれたんですか?」


見上げながら声を張り上げると、若菜さんは息を切らしながら、ライト方向を指差した。


「ライトスタンドの方に行って! 早く!」


「え?」


「お願い! 隼人が」


「相澤先輩が?」


「じゃなくて、翠ちゃんが」