ブルペンのマウンドに立つ本間先輩は、激しく凛々しい。

カッコいい。

そんな本間先輩の投球練習を見ると、おれは軽く落ち込んでしまう事が多々あった。

まだまだ、だ。

まだ、あのマウンドにはかなり遠い位置におれは居る。

正門を抜け、八重桜の木のトンネルを抜け、急勾配を下った。

ロードワークのコースは決まった道で、グラウンドに戻る頃にはちょうど1時間強の長い道のりだ。

ピッチャーとキャッチャーは夫婦同然。

心中も覚悟しろ。

監督の口癖だ。

毎日のように、口酸っぱく言われている。

30分ほど走ると広い河川敷きに出た。

北方向へ長く続いている川は、ずっと向こうに見える橋のもっと奥の日本海へ繋がっている。

この清らかな川辺りが、折り返し地点となっていた。

緩やかに流れる川辺りには、5メートル間隔で白いベンチが5つ並んでいる。

黄色。

いや、白か。

違う。

乳白色を帯びた金色だ。

夕方になりかけている時間帯の太陽の光が反射した水面は、かなり眩しい。

おれは目を細めた。

学校帰りの小学生達がランドセルを土手に放りっぱなしにして、キャッチボールをしていたり。

退職して暇をもて余しているのか、平日休みなのか。

本当のところは謎だが、大人の男が居眠りしながら釣りをしていたり。

のどかな光景が、河川敷きいっぱいに広がっていた。

この川は町の人々の憩いの場になっていて、南高校のボート部の練習にもよく使われている。

今日も数台のボートが威勢良く緩やかな流れの川を切り開くように、流れに逆らって登って行く。

「よし、戻るか」

と健吾は言い、汗だくになりながらも気持ち良さそうに息を切らしていた。

「おう」

西風に川の瑞々しい香りが入り交じって、額の汗に触れるとひんやりとした。

「あれっ! 夏井と健吾じゃんか」

折り返し走り出した時、聞き覚えのある声に呼び止められ、おれと健吾はほぼ同時に振り返った。

「よう、結衣。お前、こんなとこで1人で何やってんの?」

少し息を切らしながら疲れた声で、俺が訊いた。