三年生は実習、実習、また実習である。この頃は一年生の時に、

「早く実習に行きたいねえ。」

などと言っていたことは飛んでしまっていて、ただ苦痛なだけであった。毎日が緊張の連続。一日一回は何かしら怒られる。そして必ず誰かが泣いて帰ってくる。さらに慢性的な睡眠不足。正直当時は、

「看護学校ほど辛いものはない。女子大生がうらやましい。」

とみんなで言っていたものだ。

 もちろん実習は辛いばかりではない。楽しいこともあるし、一般人が出来ない体験もできる。感動の涙を流すことだってあった。一般人が絶対に入ることの出来ない場所。それはオペ室と分娩室だろう。もちろん患者さんや妊婦さんは入るわけだが、麻酔で意識が無かったり、妊婦さんにいたってはそれどころではない。客観的にオペ室内や分娩室内を見られるのは、ナースの特権だろう。まして生命の誕生を生で見たり、手術で人の体の中身まで見られるのだ。最初こそ手術で内臓を見て気分が悪くなったりしたが、それも慣れである。

 初めて赤ちゃんがお母さんから出てくるのを見たときは、予想通り感動し、涙した。ただ、お母さんがあまりにも苦しむ姿を初めて目の当たりにしたときは、ややたじろいだ。苦しみ方が尋常じゃない。そんなにも苦しい人を、どう励ましてよいかわからない。それでもただ黙って突っ立っていたら、ナースや助産婦さんに怒られるから、妊婦さんの手を握り、

「はい、ヒッヒッフーと息をしてください。」

と声をかける。