自室の前で立ち止まる。少し深呼吸をして、ノブに手を――

「? お?」

置いてみて、軽く驚いた。なにもない。

「前は感電したものだがな」

悠長に言ってみるものの、その時の火傷が右掌に残っているのだから、笑えることではないだろう。

もっとも、さらに笑えないのは実際にそんな仕掛けをした元大佐の男である。

セリーヌの剣腕を恐れてやった悪事が暴かれ、階級を剥奪、軍は追放、今は地下牢獄で襤褸をまとっている。

セリーヌが就いている大佐の地位も、そんな空席への格上げだった。

結果として今、セリーヌへ野次を送っているのは元大佐の腰巾着だった者が大半である。

その腰巾着の嫌がらせが、かといって苦になったことはないが。

張っていた気をわずか緩めて、セリーヌはドアを開けた。

「あ、おけーりぃ、セリィ」

そして、本当の難題は室内にこそあったことに、五秒の時間をくれてやった。

五秒、すばらしく見事に呆然としてやったのである。