CE-LI-NE

階段を上る。

できるだけ音は立てたくないところだが、いかんせん建物が古い。

その上、セリーヌが着用しているのは軍規律に従った革の長靴。歩くたびにぎしり、ごつり、と音がする。

二階まで上る。足跡は、三階へ続いていた。

空気は、水を撒いたように、嫌なほど静か。ただ、セリーヌの息遣いと足の運びばかりが、錆びて鈍くなった柱時計の振り子のように、響く。

剣は、まだ抜かない。警戒はしているものの、取り越し苦労ということもある。

そもそも、ここには少年を引き取りに来ただけに過ぎない。

上から火急ながら負わされた任務はただ、ここでとある少年を引き取り、そのまま保護せよというもの。

そう、その手順自体、行為そのものにはなんら難しい部分はない。

ならば、なぜ、自分がその役に当てられる? それが最大の謎、疑問だった。

だから気が張る。張り詰める。

いいや、そんな理性や思考に頼る前から、感じ取っているものもある。

剣を握る一兵士、霜刃の二つ名を背負う者としての本能が、胸の内側でガンガンと警鐘を鳴らし、血流を速めている。