軍施設区域の廊下を二人で歩く。つかつかと靴音を響かせるセリーヌの背後で、足音が一人分増えた。

鼻に刺さる香りを嗅いで、セリーヌは増えたひとりがなにか言う前に口を開いた。

「ジンか。どうした」

振り返らずに誰何を的中させたのに、ジン・クサナギは驚かない。

着乱して襟を開け、タイも結ばないという軍規的にあるまじき女性は、くわえている紙の筒をひょこひょこと上下させた。

「セリーヌ、上の連中から伝言だぞ。『ガーディアン』を出せとよ」

「なぜ。どこに」

「ライストの東に検問を敷けだと。ドーラ行きの連中に、突然変異した竜への注意を促せってこったな」

軍服の着用ばかりか言葉遣いもなっていないジンだが、セリーヌは気にしない。

ジン・クサナギにはそういう、人に認めさせる雰囲気がある。

「ああそれから」

と、ジンは言葉を加える。

「例のファイアル少年も『ガーディアン』に追わせろと言ってきたぞ。相手は炎の魔法を使うから、並みの兵では無意味だろうという判断だ。まったくもって、俺を伝言役にしおってからに」