CE-LI-NE

本来ならば、捕らえなければならない相手だが、セリーヌは動かない。

ただ黙ってジンを見上げる。

……見上げる……?

「……んっ、んっ」

セリーヌは内心だけで慌てて、ルイスの横にしゃがみ込むという、まるであどけない少女のようなポーズをやめた。

立ち上がり、わざとらしい咳払い。

ジンに笑われた。

「んっ、んっ」

と、もう一度咳払い。

「ジン、お前には現在、脱走という嫌疑がかけられている。私の前に現れる意味が、わかるな?」

ジンは、余裕綽々の体である。

「ふむ。重々承知だ。ここまで来るのも大変だったからな。あ、お前がひとりになる瞬間を待つのはもっと大変だったぞ?」

「ほぉ?」

ジンが、実は暗殺者であるという可能性を考慮してみる。

が、鼻で笑ってしまう自分がいた。

「それで、なぜ私の前に現れた? 記憶喪失は治った――いや、最初から嘘だったのだろう?」

「……なぜそう言える?」

「見くびるな。お前が資料室でああも本を散らかしたのは、もともとなにを調べていたからわからないようにだ。が、私にごまかしは利かん。お前が調べていたのは、未解決の、謎の多い怪事件ばかりだ。そうだろう」