ルイスはいなかった。しかしいた。そして今、いない。

精神的に、セリーヌは「耐えるに難い」とぼやかずにはいられなかった。

右手に持った剣を、今一度握り直す。

ほかの兵らがサーベルを基本装備としているライスト国軍において、それ以外の武器を持つのはそれだけで地位の証明になる。

ゆえにセリーヌの長剣には、地位と同等に、責任も乗っている。

挫けている暇はない。

幸い、下水の中は照明が灯されていた。

壁にかけられた蝋燭の火が、セリーヌの影をゆらゆらと、長く長く対岸まで伸ばしている。

これを辿ってゆけば、少女の『神様』――ひいては、地上に魔法陣を敷いた暗黒集会の人間のところへ行ける。

例の少年も、恐らくはそこではないか。そんな予測を立てている。

私情は挟まない。今は軍人として『任務』を遂行する。

頭脳はそのように行動理念を組み立てているが、剣を握る手は、力んでいた。

わかっている。

ルイスを焼き砕かれたのが悔しいのだろう、セリーヌ・ウォン・ドストロフ。

だが……冷静になれ。自らを乱すな。己を保て。

〝霜刃〟ならば、できるだろう。