空気は淀んでいた。

生活排水の流れる下水道の細道を、セリーヌは度々、壁に肩を預けながら進む。

少女との戦闘で、だいぶ体に衝撃を受けた。まだ、三半規管が不要な振動を続けている気がする。

高所からの無理な着地のせいか、一歩一歩の体重がイヤに負荷となった。

かつん。ざり。はあ。
長靴の高い音。
かつん。ざり。はあ。
服が壁を擦る音。
かつん。ざり。はあ。
セリーヌの息遣い。

それらがゆったりと流れる淀んだ下水、そして空気の中に木霊する。

セリーヌはちらりと、斜め下を見やった。

カビの蔓延る場所のせいもあるか、水はそこはかとなく緑色をしている。

どこから流れてきたかは知れないが、リンゴの芯が旅をしていた。

思わず、失笑と溜め息を足して二で割る。

「ライストもいずれは、ドーラをとやかくは言えんだろう。な」

振り返って、その失笑と溜め息は、強まる。

一拍だけ、セリーヌは呆けることを自分に許した。

そう。後ろにルイスはいない。

いつもついてくる降魔師が、いない。

いや。最初から彼は自分のそばにいなかった。

あれは、『あのルイス』は、ジョセフィーヌと同様なのだから。