セリーヌは目を閉じた。

少女が向けていた怨念の眼差しが、瞼の作る闇に潰える。

「セリーヌ……セリーヌ……セリ、ぬ゛、ご、ぉ、が……」

また、液体がぶちまけられる音がした。

ズボンにわずかな湿り気を感じ時には、布を引っ張られる重みがなくなる。

目を開くと、少女は地面に伏していた。

驚く。

ここまで弱っていながら、少女はまだ息があるのだ。

セリーヌを握ることのできない手が宙で震え、何度も空気を掌握する。

火花と気流が、少女の周囲で怒気の残滓として舞っている。

まだ、生きているのだ。

しぶとい体力は、ファイアルの血筋が賜物だろう。

もしかすると、まだ命は助かるのかもしれない。

セリーヌは、一歩進んだ。少女から離れる。

振り向かず、背中で言った。

「お前の神様を、私は処断しにゆく」

「……っ、……っ、……っ!!」

「ああだが、お前の神様は、残念ながら善良ではないからな」

そうして覗き込むのは、少女がぶち開けた地下への穴。

ルイスはもういない。

部下らはまだ復帰していない。

セリーヌは首の後ろへ手をやり――三つ編みがなくなったことに気付く。

〝霜刃〟はひとり、闇へ飛び降りた。