「――喋った。」

少しの間の後、彼が言った。
えっ、じゃあ空耳じゃ無いんだ。
さっきまでのショックは、もうすっかり消えていた。

「照れくさいから、何て喋ったかは言わない。」

――照れくさい。
照れくさいって言った。
てことは、照れてるの!?

「何て言ったか、聞こえてないよな。いや、聞こえないはず。」

ちょっと必死になる彼が可愛かった。
残念だけど、バッチリ聞こえてるんだよ♪

でもね、

「聞こえなかったことにしておくよ。」

小さく小さく呟いてみた。




『帰り際』