〔Vanilla〕― 極東の中のどうでもいいような小さな街の中の小さな店の名前。

BGMはマスターの好みか、お客の持ってくる曲。

夜が下りて間もないこの店のカウンターに二人の少年がダルそうに座ってる。

「トムさ~ん、ビアーむぁだぁ?」

[トムさん]とは、店のマスターの友崎 誠貴のことで、[友さん]がいつからか[トムさん]になったらしい。

「ガキが生意気にビールなんか呑んでんじゃねー」

そう言いながら中ジョッキを二つ出してくる。

「とかなんとか言って優しんだから~。じゃ、取り敢えずオツカレー!」

少年二人は乾杯して、一気に呑み干した。

「マジでチョーうめぇ!オレラ全然疲れてねぇのになぁ」

さっきから髪が灰色の少年が喋るばかりで、相方のリーゼントの方は殆ど喋らない。

トムが灰色の頭の少年に話しかけた。

「ナツ、お前らプーさんのくせに何で呑む金持ってんだ!?悪い事してんじゃねぇのか~?」

「んな事ないッスよ。なぁサリー?」

「あぁ」

中澤 夏月―通称ナツ。

軽薄そうに見えるが、割と人望があり周りにいつも人が集まってくる。