「誰かっ、先生呼んでくれっ」

コヤジを病院に運び込むと、数人の医師、看護師が集まり、慌ててストレッチャーに乗せた。

そして、ナツがそこに居ないかの様に急いで白衣を翻して行った。

どうしたらいいのか判らず、1人で佇むナツに女性の看護師が近づいて来た。

「お友達ですか?」

ナツが頷くと、幾つかの質問をされ、コヤジの家族へ連絡するように言われた。


血生臭さとはかけ離れた、混じり気の無い澄んだ夜が濃くなっていく。


コヤジはそのままオペ室へと連れて行かれた。


ナツは薬品臭く静か過ぎる廊下の長椅子に腰を掛ける。

1つ隣の長椅子には中学の頃から良くしてくれた、コヤジの両親が座っていた。


泣き崩れる母親
男として気丈に抱き止める父親


それを見るのは辛くて耐え難い。


無言のまま時が過ぎていく。





やがて「コツ、コツ」とリノリウム の床を鳴らす靴音が次第に近づいてきて、数メートル手前で音が止んだ。