いつも通りの仲間。
いつも通りの会話。
偶然にも同じ方向へ向かう二人と一緒に歩いていく。
「なぁ、結依?」
彼との待ち合わせ場所まで、後数メートル。
突然ヒデらしくない低く重みのある声で呼ばれ、一瞬びくつきながらも視線を合わせた。
ヒデの後ろには、風に揺れる薄く色付いた桜の枝。
ざわざわと立てる音が胸に響く。
えっ?
「……っ!!」
何が起きたのか
理解できなかった……。
一瞬にして頭が真っ白になった。
微かに触れた唇が
感覚を失う。
瞬きさえ忘れて、目の前にあるヒデの端正な顔を凝視する。
「じゃあな……」
かかる吐息。
少しずつ離れる顔。
一言だけ残して私の前から去っていった。
ただただ呆然とする。
聞き慣れた愛しい声を聞くまで、動くことさえできなかった。
「結依、今の……」
……。
いつの間にそこにいたの?
今のって、見られた?
体中から一気に血の気が引く。
「そっか、そういうこと。俺ら別れ時だったってわけだ」
「違っ……」
「いいよ。お互い様じゃん、じゃあな結依」
違うって……。
聞いてもくれないの?
あっさりと別れを告げて去る彼の後ろ姿を、呆然と眺めていた。
七瀬は何も言わず、ずっと隣に立っていた。

