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ちらほらと
桜の花が開花し始めた一週間前。
「あっ、おーい結依〜!」
立ち止まって振り向くと、そこには七瀬とヒデがいた。
「どうしたの、二人で?」
「バッタリ会ったからご飯でも食べにいこうか〜って話してて。結依は何してるの?」
「んー、今から彼と待ち合わせなんだ」
一足早く東京の会社の内定通知をもらっていた彼。
そんな彼に“内定通知”をもらったことを早く言いたくて、はやる気持ちがいつもより声のトーンを上げる。
「……何かさ、今日はやけに機嫌よくない?」
「ちょっといいことがあったんだよね」
鋭いヒデの突っ込みに微笑み、そこで言葉を止めた。
彼に一番に言いたかったから。
二人にもまだ秘密。
「いいなぁ〜、結依は彼とラブラブで。二人付き合い長いよね〜」
「そうだね、もうすぐ五年かな」
「はぁぁぁ。私も彼氏欲しー!!」
「七瀬、俺は?」
「……ヒデは、誰が好き?」
七瀬の問い掛けに、隣から「うーん」と悩ましげな声が聞こえる。
きっとヒデなら……。
「ミホとマナとレナと、ユウコとハルカと、あっ、もちろん七瀬と結依も好きだよ」
やっぱり……。
「はいはい。私はそんな不特定多数の一人になんてなりたくないし! しかも何よ、その後付けみたいな言い方は!」
「クスッ。そうだよね」
相づちをうち、笑いを零した。
これがヒデ。
モテるけど特定の相手を作らない人。
誰かと真剣に付き合っているところなんて見たことない。

