「まったく…心配症なのよね。九鬼は」

誰もいないフロントから、飛び出した夏希は、旅館の門を抜け、薄暗い道で輝く自動販売機に向かって、走り出した。

一応、気を探ってみるが、気配はない。

そそくさと、自動販売機の前に来た夏希は、お金を自動販売機に入れた。

「まずは…コーラと」

ボタンを押し、落ちる音がしたので、しゃがんで、取りだし口に手を差し入れた。

しかし、取れない。

「あれ?」

コーラの缶は掴んでいる。だけど、取れない。

「あれ?あれ?引っかかっているのかな?」

缶を取ろうと格闘している夏希の頭の上から、笑い声がした。

「はははは!まさに、引っかかったな!五月雨夏希!」

「え?」

しゃがみながら、上を向いた夏希に、自動販売機が話しかけていた。

「わたしは、魔神自動販売機!お前達が、喉が渇くのを昨日から待っていたのだ!」


「魔神!?」

夏希は慌てて、手を抜こうとしたが、抜けない。

「ははは!」

魔神自動販売機は高笑いをし、

「わたしの中に、手を突っ込んだ者は、決して逃れることのできない蟻地獄ホールド!貴様は、罠にはまったのだ!はははは!」

笑いが止まらない魔神自動販売機。

しかし!

「取れた!」

夏希は、取りだし口から腕を抜くことができた。

「なにいい!」

驚く魔神自動販売機のつぶらなセンサーに、夏希の手が映った。

魔神自動販売機は、手をアップで映すと、怒りだした。

「き、貴様!コーラを諦めたのか!」

「まあ…いいや…」

夏希は、しばらく魔神自動販売機を観察した後、別の自動販売機に向かって走り出した。

「き、貴様!百二十円払ったんだぞ!惜しくはないのか!」

「もういいよ!」

夏希は別の自動販売機に、千円札を投入した。

「か、金持ちがあ!お金の有り難みを知れ!」

ガタン!

普通に、コーラを取り出した夏希には、もうどうでもよかった。