「じゃあ…行こうか?」

一応、理香子達が見ているクラスは、九鬼達とは別だった。

自由行動だが、なぜか理香子についてくる女生徒達と観光巡りをしていた。

「次、どこいかれるんですかあ?」

キラキラした目で、理香子を囲む生徒達。

「そうだなあ〜」

顎に手を当てて、悩む理香子はそんな生徒達の視線なんて気づかない。

(なんというか…持って生まれたオーラというか…)

楓の周りには、生徒達は来ない。

西の相原理香子。東は、九鬼真弓か黒谷蘭花。

美人として、地域で有名だが、

アイドルである蘭花と、どこか孤独と鋭さを持つ九鬼とは違い…理香子には、他の2人にはないものがあった。

人を惹き付けるのだ。

しかし、当の本人に自覚はない。

姫と言えば、理香子。

それは、姉妹校である大月学園にも知れ渡っていた。

(そんな姫が…冴えない男が好きなんて…)

楓は何気なく、三門の上に上がる出入口に目をやった。

ちょうど降りて来た男を見つめ、

(そうそう!あんな冴えない……!?)

楓は、目を疑った。


「中島!?」

自分が声をあげる前に、理香子が声に出していた。

「うそお!」


楓は振り向き、理香子を見た。

(あの反応は、本物だ)

「中島!!」

理香子は、生徒達を掻き分けて、中島に向かって叫んだ。

聞こえているはずだが、中島は答えない。

背中を向けて、三門の柱を回った。

「おい!中島!」

理香子は走った。

そして、柱の角を曲がった。

「え」

だけど、中島はいなかった。

柱の太さは、三メートルくらいだ。

そんなに早く消えるはずもないし、隠れる場所もない。

楓は柱を回らずに、三門の下をくぐり抜け、反対側に回った。


しかし、どこにも中島の姿はなかった。



「中島…」

理香子がきょろきょろと周りを確認していると、

柱の入口から、蒔絵が出てきた。

少し遅れて、夏希が姿を見せた。

そして、柱の横で立ち竦む理香子に気付いた。

「あっ!姫だ」