「来たか…」

月影号の波動を感じ、男は顔を上げた。

背中しか映っていないため、顔は見えなかった。





「どうなってるのよ!」

あたしは京都ではなく、見知らぬ山の中に降りることになってしまった。

月影号が降りていく場所は、巨大なダムである。

某有名な長○県のダムだ。某知事だった人が、揉めたことで有名だ。


「こんなとこ!乙女が、1人で来る場所じゃない!」

あたしの絶叫は、ダムの方から飛んできた光の玉に、かき消された。

「きゃあ!」

光の玉が当たった瞬間、緊急脱出システムが作動し、あたしはシートを突き破って飛び出してきたバネに弾かれ、空中へとほりだされた。


「パラシュートもないんかい!」

乙女ソルジャーであるからいいものの!

普通の人間なら、どっちにしても死んでいる。


「乙女ウィング!」

背中からムーンエナジーを噴射させ、翼のような形を取ると、あたしは青空を疾走した。

「ムーンエナジーを充電していて、よかった」

飛びながら、ほおっと胸を撫で下ろした。

九鬼から、ムーンエナジーの使い方を教えてもらい、使い方がわかってからは、結構楽になった。

しかし、今は昼間である。

あまりムーンエナジーを使う訳にいかない。

あたしは、ダムの近くに着地すると、学生服に戻った。

攻撃された月影号は、爆発しながら、ダムへと落ちていった。

「ああ…テコ入れがあ…」

あたしが、合掌していると、刺すような殺気が胸を射ぬいた。

「な!」

昔のあたしなら、それだけで怯んだはずだけど、今のあたしは違う。

乙女ケースを構え、殺気が飛んできた方を睨んだ。

ダムを挟んで、二百メートル程向こうに立つ人影。

「誰だ?」

表情もわからないが、なぜか笑ったように思えた。

その人物は、扇を描くように両手をゆっくりと広げると、足を動かさずに移動し、ダムに貯まった水の上で止まった。

そして、水の上を歩き出す。