あたしの行動を見て目を丸くした里見さんに対し唇に右人差し指をあててウインクする。

里見さんは笑いをこらえながら席を立った。

「どうした?」

あたしたちの様子に気づいた達郎がそう声をかけてきたが「別に」とトボけてみせた。

達郎は首をかしげながら、入れ替えたカップを手にとった。

ふたつのコーヒーカップは全く同じものだから、気づかれる心配はない。

カップが達郎の口に近づくにつれ、あたしの頭の中には様々な考えが巡った。

飲んだらどういうリアクションをとるだろうか。

吐き出すだろうか、噴きだすだろうか。

どちらにせよ、しばらくは呆然とするだろう。

その後はどうなるか。

あたしの仕業だと気づくだろうか。

気づいたらどうするだろう。

もしかしたら、怒るかもしれない。

そういえば達郎が怒ったところは見た事ない。

怒ったらどうしよう。

…。

まぁいいか。

それこそ、その時はその時だ。



『点灯す』END