「そのことなんですけど…」

口ごもった政美に警部が反応した。

「何か思い出されたんですか、奥さん」

「貴重品を入れてあった箱のフタがあいてたんです」

「箱のフタ?」

「ええ。通帳やカードが入ってた箱のフタです。中の物が無事だったので気にしなかったんですが、フタがあけられてたのに何で中身が盗まれなかったのかと不思議に思いまして」

言われてみればそうだ。

金品には手をつけずに、蛍光灯を盗んだ犯人。

犯人の目的はなんだったのか。

そればかりが気になってくる。

「フタと言えば」

達郎が口を開いた。

「台所のカニは奥さんが買ってきたものですか」

「カニですか?」

政美は目を丸くした。

「いえ、ウチにはとてもそんな余裕は…買ったとしたら主人以外はありえませんが…」

政美が不意に両手をあわせた。

また何かを思い出したようだ。

「昨日主人が言ってました。近々まとまった金が手に入るって」

「それは本当ですか、奥さん」

「ええ。私は冗談半分に聞いてたんですが…」

あたしと浦川警部は驚きの表情で顔を見合わせた。

達郎だけが、無表情だった。