「ええと、まず被害者についてですが、殺害されたのは、この部屋に住む下瀬智広(50)。去年の9月から某警備会社でガードマンをしていました」

死因は出血死。腹部を鋭利な刃物で一突きされ、ほぼ即死状態だった。

「9月からというと?」

達郎が口をはさんだ。

「以前は会社を経営していたそうですが、去年のはじめに会社は倒産。自宅も手放していわば都落ちのような形でこのアパートに転居してきたそうです」

去年から続く、世界的な経済危機の余波はどんどん広がっている。

こういった話は今後も聞くことになるだろう。

浦川警部の説明は続く。

「第1発見者は被害者の妻・下瀬政美と、このアパートの管理人である村本良彦の2人です」

パート勤めをしている妻の政美は、午後5時に勤務を終え退社。

そして夕食の食材を買うため、そのまま近所のスーパーマーケットへ向かったそうだ。

そこでの買い物を終えてアパートに帰ってきたのは午後6時半ごろ。