「やだっ…貴っ…やめて!」
貴志は欲情にとりつかれたようだった。
懸命に離れようとしても、彼の体はびくともしない。
「嫌だってば!」
私は貴志に声を張り上げていた。
一瞬空気の流れが止まったように、私の荒い息だけが部屋に響いていた。
気付けば、彼の熱を帯びた瞳はいつもの瞳に変わっていた。
貴志は一瞬で我にかえったようで、立ち上がり、
「……ごめん」
とだけ言うと、部屋から出て行ってしまった。
バタン、とドアの閉まる音がやけに胸の奥まで響いた。
私の服は乱れ、体のあちこちには拭いきれない彼の欲情が染み付いている。
一瞬にして犯してしまった彼の過ち。
じわじわと侵食する言葉にできないような、痛んだ胸のざわめき。
私の中で何かが崩壊した。
やっぱり私たちはそんな関係にはなれなかったのだ。
でも抑えることのできなかった彼の想いを、私は痛いくらい分かるのだった。
皮肉だろうか、私は何もしてあげられないのに。

