私は、この街から去ることを決めた。いつかは、踏ん切りをつけなくてはならなかった。それを決定的にしてくれたのは、この腹の中のミヤの子だった。

出発の日、私はクラウンを訪ね、白井にだけこのことを告げた。

何も言わず去ってしまった仲間の中で、私だけがきちんと白井に伝えられたと思う。白井は、そのことについては少し安心したような、嬉しそうな顔をしていたけれど、でも、ずっと寂しい目をしていた。

「私、ミヤの子を産むよ。だから、それまでこの街ともお別れだ」

真っ直ぐに見つめる目を、白井は少し曲がりくねったように見つめ返して、そうか、と短く言った。

最後のクラウンを、ぐるりと見渡すと、相変わらずいつもの場所には、あの時と同じように椅子がぐるりと机を囲んでいた。それぞれの、主はもうここにはいない。

一番遅くやってきた私が、一番遅く去ることとなった。先に去ったのは、ミヤだった。