りんごゆき



ドアが閉まり、柊くんだけを乗せた電車の発車時刻がやってきた。



ドア越しに柊くんの口が動いた。

もう声は聞こえなかった。



声は届かなかったけれど私には分かった。



柊くんがあの唄を唄っていた。

私の、私たちの大切な唄を。

私の大切な詞を。

心にはちゃんと届いたよ。



そして、電車はゆっくり動き出す。

お互い笑顔で手を振った。



遠くなる電車に私は見えなくなるまで手を振った。