「かりん?」 柊くんが後ろ姿のまま尋ねた。 声を聞いて、私はその場に固まった。 これ以上踏み込んじゃいけない気がしたのは、きっと気のせいなんかじゃない。 「何かあった?」 私はその場に停止したままそう聞いた。 「今、下で大剛さんに会ったよ。」 「……。」 どれくらい時間がたっただろうか。 台所の窓が風でゴトゴト揺れる音に混じって、柊くんの横隔膜の振動する音がやけに大きく響いた。 私は聞こえないふりをしていたんだ。