瞬間、ダランと弧を描いて元の位置に戻る腕。

それは中村が手を放したせいで。

まるで捨てられたおもちゃのようだ。


……あぁ、そっか……。


目の前の現状に絶望した俺は、ゆっくりと口を開いた。


「……付き合ってない」


それは中村にじゃなくて、すぐ近くで話してた生徒に向けた言葉。

だけどそんなのは言い訳で、俺の意識は全て中村に集中してる。


茫然と俺を見上げる中村。


「……もう行くから」


何も言わない中村を残し、俺は静かにその場を去った。


これでよかったんだ。

だって、俺の腕を放した時。
中村は嫌悪した表情をしていた。

俺と付き合ってるって言われて、すごく嫌そうな顔をした。

あの綺麗な瞳が、曇った。


それだけで十分だった。


もういい。
もう……疲れた。


そそくさと逃げ出した俺は何食わぬ顔で教室に入ると、出来る限りの笑顔で友達に挨拶をした。

胸にポカンと空いた穴に気付かぬように──。