『うん。大丈夫。シュンが良い曲を書くのは知ってるから』
レイナはそう言ってニコッと笑い、シュンの隣の椅子に腰を下ろした。
『ねぇ、シュン。一つ聞いていい?シュンは施設を出た後何してたの?』
レイナは気になっていた事を尋ねた。
『俺はな、施設を出た後トラック運転手をしてた。その時出会って付き合ってた彼女との間に子供が出来て、結婚も考えていたんだ』
シュンは過去を話した。
『えっ!?シュンに子供いるの?』
レイナは凄く驚いた。
『ああ。だけど、やっぱ音楽の道が諦められなくてさ…俺、会社辞めたんだ。だけどさ、その彼女の両親がなかなか厳しい人で、不安定な生活を続けることになった俺のせいで、俺たちは強制的に別れさせられた。彼女を失って酒に溺れていた俺に、居酒屋で声をかけてくれたのが小林さんなんだ。そして、ギターの腕を認められて今ここにいるんだ』
シュンはそう言って黒いハットを深く被った。
『シュンにもそんな事があったんだね…』
レイナはハットを深く被ったシュンを見つめた。
『あの時…あの時、その彼女と駆け落ちでもすれば良かったのかも知れないけど、彼女とお腹の中の子供の事を考えたら、これで良かったのかなって今は思うけどな。愛より夢を選ぶなんて…俺は最低だよな』
シュンはそう言って唇を噛み締めた。


