主人とネコ(仮)




唇に触れる、柔らかいもの。その突然の感触に、ももは驚いて目を見開ける。

「なっ……なな……!」

離れるや否や、言葉をぶつけようとするが、驚きと恥ずかしさが上回りうまく言葉にならない。

「んっ」

また重なる、二人の唇。けれど先ほどの触れるだけとは違った。
舌が入ってきたことに気づき、ももは逃げようとする。
エルは彼女の後頭部に手を回す。逃げることが出来ないように、頬に触れる。

「―――っ」

唇をなぞられる。ぞくぞくとしたものが、少女の体を襲った。

頭がぼうっとする……。ああ、酸素不足だ。

冷静にも、彼女はそんなことを思う。

「力は抜けたようだな」

その言葉に、その表情に、こいつ、と一言言ってやりももだが、ベッドに身を任せたまま肩で息をする。

勝手にキスするなんて……。

「……サイテー」

唯一言えた文句はそれだけだった。
彼の顔が首元に近づく。反射的に彼女は目を瞑った。

「心配するな。あまり痛くはない」

囁く声が、耳朶に響く。刹那、首筋を舐められぞくりとする。

「っ……」

ちくりと少し痛みがそこに走る。

「勝手に……飲まない、で……!」

暴れたいのに、力が入らない。押さえつけている手も、さっきよりは弱くなっているのに……!

「さすが特別なものだけあって、格別な味だな」

その言葉に、さらに苛立ちが募る。涙が頬を伝った。

ああ、頭がくらくらする。視界がぼやける。

「――っと、少々飲みすぎたか」

ほんと、サイテー。少しは、私の体のことを気にかけてよ。

そう叫びたいが、声を出す気力すらもうない。

少女が唇を噛み締めたことを、魔王は気づかない。

特別な血を飲めてご機嫌ね。私は最悪な気分だわ。

瞼がさらに重たくなる。涙はまた、頬を伝い流れ落ちた。

「よい夢を」

そう言って、彼女の額にキスをする。

――……思ってもいないことを、言わないで。

最後に彼女は文句を胸の内で呟き、深い眠りへ入った。