主人とネコ(仮)




こ、こいつ、今私を投げた!

ベッドの柔らかさに痛みを感じることはないが、それでも怒りが芽生える。

「ちょっと――!」

咄嗟に起き上がろうとする。

「お遊びは終わりだ」

「……っ」

ももの上に魔王が覆い被(かぶ)さる。左右どちらかに逃げようとしても彼の腕がそれを封じている。

完全に、逃げ場を失った……。

「さあ、それでは――」

彼の顔が近づく。彼女はぎゅっと目を瞑った。

「……お前」

ももの様子に、エルは目を細める。

「恐いのか? 血を飲まれることが」

頬に触れると、彼女は肩をびくつかせ体を強張らせる。しっかりと下ろされている瞼は上がりそうにない。唇は強く噛み締められていた。

……恐がっていると、気づかれたくなかった。
しかもそれが、血を飲まれるということに対する怯えだということを。
なのに、気づかれてしまった。

――恐いなんて、言える訳ない。魔王(こいつ)はせせら笑うだろう。散々強気のことを言っておいて、と。
ああ、苛立たしい。所詮は〝ただの人間〟だと言われてしまうことが。どうすることも出来ない、無力な自分が。

さらに強く、唇を噛み締める。

「噛むな。傷が残る」

唇に触れる、彼の指先。けれど少女は緩めない。