主人とネコ(仮)



そっと瞼を上げる。

「ベッド……?」

ああ、通りで痛くなかった訳だ。
よかったよかっ――。

胸の内で呟きながら、はっと何かに気づいたかのように目を見開ける。

「よくないよくない! 早く降り……」

咄嗟に起き上がろうとするが、時すでに遅し。

「後ずさるという行動において、後方を確認しておくのは基本だぞ」

耳朶に響く、その声。顔を見なくともどこか楽しげであるとわかる。
魔王の手が頬に触れる。ひんやりとしていた。

やば、い……!

「追いかけっこはもう終わりか?」

耳元で囁かれる。頬に触れている手が、首元に滑る。

「さ、触らないで!」

エルの手を払い除け、彼女は再び後ろへと後ずさる。ベッドの上は薄暗い。

〝逃げないと〟

何度も胸の内でそう唱えながら、必死に下がり続ける。
けれどその言葉に囚われすぎ、ももは忘れていた。

幾ら大きいベッドであろうと、いずれ終わりがやってくるということに。

「っ……」

がくりと体が後ろに揺れる。手がシーツから滑り落ちたのだ。

今度こそ痛い――!

「だから後方を確認しておくのは基本だと言ったのに」

少し呆れた声。背に感じる温もり。

「ごめ……」

思わず謝りそうになった口を噤む。
背に腕を回し、魔王は少女を支えていた。

「わっ――!」

引き寄せたかと思うとそのまま抱きかかえられ、枕元まで投げられる。