主人とネコ(仮)




「っ……殺したければ殺せばいい! あなたの言いなりになるくらいなら、殺されてしまうほうがましだわ!」

その声に、言葉に、エルは少し目を大きくさせた。けれどすぐに、細める。

「そう言う割には、震えているじゃないか」

「あなたに対する怒りのせいでね! 血は絶対に飲まさせないんだから!」

負けるな、私。恐いけど、絶対に引かない。

「……」

じっとエルは彼女を見つめる。そして顔を離した。
彼が触れていたところには、まだ僅かに痛みを感じる。

「本当に――」

口端を吊り上げ、魔王は笑う。

「お前は面白い奴だ」

怯えながらも此処まで逆らう奴は初めてだ。

「いくらでも足掻けばいい。いとも簡単に血が飲めるなど、つまらないからな」

一歩、彼は足を踏み出す。

「の、飲ませないって言ってるでしょう!」

一歩、彼女は後退りをする。

どうにかして、この部屋から出ないと……!

「それに、あなた勝手に私のことを〝野良ネコ〟とか言ってるけど、私はネコじゃないんだから!」

ああ、もう、〝ネコ〟のことをどうこう言いたい訳じゃないのに、頭が混乱してうまく言えない。
ああもうほんと、にやりとしたその顔が、苛立たしい――!

「それに、それに……!」

睨みつけながら、後退していく。

どうしてそんなにじりじり迫って来るの? いや、私的には嬉しいけれど……。
あの笑みが何か引っ掛かる……。まさか何か企――。

トン、とふくらはぎ辺りに何か触れる。

「……え?」

ぐらりと体が揺れる。

――落ちる!

咄嗟に目を瞑り、体を強張らせる。けれど痛みはなく、むしろ柔らく、気持ちがいい。