はあ、と小さく嘆息し、窓のもとへ寄る。ぽつぽつと雨が降り始めていた。
―― もも様、大丈夫ですか? ――
「……アイツともうすぐ会うと思うだけでため息が出るわ。憂うつ」
―― いいえ、そのことではなくて…… ――
その言葉に、ももは振り返り首を傾げる。ベットの上に置かれている古びた本は仄かに光っている。
―― 先ほど、具合の方が悪かったようですが…… ――
「ああ、確かに悪かったわね。忘れてた」
目を丸くする素振りから、忘れていたという言葉が嘘でないことを示す。
―― 忘れていた、ですか ――
「あんなにも苦しんでいたのに?」という言葉は、言わなかった。
「……んー、それに、どうしてさっきはあんなに具合が悪くなったんだろう」
相変わらず首を傾げたままの彼女。本は黙り込む。
顔面蒼白に、震えていた指先。息も少し上がっていた。
かつて妖精であった不思議な本も、魔王の従者グレイも確かにその様子を見ていた。
そして、急に少女がぴたりと静かになった様子も。
( もも様? どうなされたのですか? )
怪訝そうな彼の顔。彼女の栗色の瞳は、虚ろだった。
何度も彼は少女の名を呼び、そしてようやく、彼女は我に返った。
けれど彼女はまるで何もなかったのかのように、空元気でもない明るさを取り戻していた。
グレイはもとに戻った少女と平然と話をしていたが、異変には気付いているに違いない。
そして彼も思っているだろう。
〝この少女には、何かある〟と。


