ももはきょろきょろと城の周りを見渡す。

「此処は森に囲まれているの?」

「ええ。ですが、ただの森ではありません。呪森です」

「……ジュシン?」

「簡単に言えば、あの森は呪われているのです。下級魔族の者たちは一度あの森に足を踏み入れると二度と抜け出すことはできない。中級魔族ですら、道しるべとなる魔法を使わなければ元の場所に戻ることも、森から抜け出すこともできません」

上級魔族だけが、あの森の中を通ることができるのです、とミルアは続けた。

「つまり、魔王に魔力を奪われ、〝ただの人間〟となった私は、あの森に入ったとしても、死が訪れるだけってことね」

「……まあ、そうですね」

冷たい風が、二人の頬に当たる。少し先の方に目をやれば、分厚い灰色の雲が空を覆っていた。

「そろそろ中に入りましょう。雲行きが怪しくなってきましたから」

わかった、とももは立ち上がる。呪森の方を一瞥すると、まるで不気味な木々がおいでと誘っているかのような気がした。

「もも様」

「あ、うん」

振り返り、ミルアの後に続く。

「呪われていると分かっていて、中に入ってしまう者たちも多いの?」

「ええ、そうですが……。なぜですか?」

「あの森自体が、下級種族たちを中に入れようと、誘っているように見えるから」

「……」

確かに呪森自体には魔力がある。けれど見た目はただの森だ。少し不気味さを放ってはいるが、それでもただの森に見える。
中級以上の魔族でなければ、あの森が魔力を持っているということには気づかないだろう。

「……不思議な方だ」

ぽつりと彼女はつぶやいた。

「何か言った?」

「いいえ、何も」

呪森が魔力を使い、下級の者たちをおびき寄せているのは確かだ。
けれどそれを、魔力を奪われた〝ただの人間〟が気づくはずがない。