胸の中を襲う痛みに、ももは重い瞼をゆっくりと上げる。息は上がっていた。

「まだ辛いか?」

すぐ傍から聞こえる、少し低い声。

「ま、おう……」

痛みに耐えながら、彼女は体を起こす。異常に体はだるさを感じていた。

「安心しろ。もうすぐでおさまる」

魔王、エルは何の思いも篭っていない、冷たい眼差しでももの左胸上に触れる。
先程までの痛みは次第に消えていった。
不思議に思った彼女もまた、彼の指先に視線を移した。

ネグリジェははだけており、鎖骨から少し下あたりまでが丸見えとなっていた。
それに気づき、ももは恥ずかしく咄嗟に胸元を隠そうとしたが、あるものが目に入り、思わず固まってしまう。

彼の指先にあるものは、まるで飛龍のようにみえる、漆黒の紋章。

「なっ……なによ、これ!」

見たこともないその紋章に、ももは驚きを隠せない。

「俺のものだという証(しるし)だ」

「……はい?」

“俺のもの”

つまりあたしは、魔王の所有物?

「ふ、ふざいけないで! 勝手にそんなこと決めないでよ!」

エルを睨みつけるが、それは彼に全く通用しなかった。

「お前に拒否権はない」

そんな……。そんなの、絶対にイヤ!
こんな所、魔力を使って逃げ――。

「お前は考えていることが顔に出やすい奴だな」

え? と思いながら、ももは魔王を見上げる。

「お前の中にある魔力は奪っておいた。魔力を使って反抗するどころか、逃げることすらもできない」

「なっ……」

嘘、でしょ?

彼の言葉が嘘であることを証明するために、ももは必死に魔法を使おうと試みる。けれど力が入らない。

そん、な……。
私、もしかして一生此処にいなきゃいけないの?