その日僕は、生まれての失恋をしたせいもあったのか、
一隅で起こっていることなど知らず、自分ひとりだけが地獄に取り残されたかのように、
世界中の色を失っていた。
『せっかく高校に受かって、クラスにも馴染んできた頃だと思うんだが……。
幸希、ごめんな。父さん、会社クビになっちゃったよ……。
しばらく東京のおじさんのところに暮らすことになると思うから、そのつもりでいなさい』
肩を深く落としたままリビングを去る父親の背中は、今まで見てきた中で一番小さかった。
さっきまで僕に笑いを与えてくれていたテレビの音が、そのときばかりは耳障りで仕方がなかった。
聞けることなら、もう一度同じ言葉を、父から聞き出してやりたいと思った。

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