例えばこれが夏まっさかり、灼熱地獄のような日々に訪れた恵みだったなら。
それはさぞかし沢山の人に喜んでもらえるのではないかと思う。
沈黙に包まれた。
僕も麻人も、互いに声を発そうとはしない。
流れ行く時間に、ゆっくりと体を預けるだけだ。
…と、どこからか、耳につくような古ぼけた音が聞こえてきた。
その音の主はすぐにわかった。
もうすっかり聞き慣れてしまった、教室の扉を開ける音だ。
「…幸希。」
鼓膜の奥にすんなりと入り込む彼女の声は、心なしか少しだけ悲しみが混ぜ込まれているような気がする。
教室の扉を開けると共に僕の姿を確認した彼女は、そっと肩を沈めた。
人間がホッとしたときにする仕草だ。

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