そんなことを言ってしまえば、それは親父にとって苦にしかならないことはわかりきっていた。
それでも、
『…は?』
そんな間抜けな溜め息にも似た声を、出さずにはいられなかった。
時間なんてあっという間で、気がつけばもう引っ越しの前日。
父からクビを告げられた母は、最初は『ここを離れたくない』と嘆いていた。
今まで積み上げてきたものがなくなってしまうのが怖かったのだろう。
大切にしてきた近所との繋がりも、大事にしていたこの地で暮らした思い出も、
場所が変わってしまえば、どんどん色褪せてしまうのは否めない。
だからといって時間を元に戻すことなんて到底出来るわけもなく、
僕たち親子は父が言った言葉に従うしかなかった。

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