季節は春、花の匂いが立ち込め、空はくすんだオレンジに染まる頃。ここは静寂で包まれた駅の改札。僕の家から歩いて15分ほどの場所に位置する田舎駅だ。

僕は「仕事」を終え、いつものように帰路につく。何も変わらない平凡な日々。変わったことと言えば駅裏の小学校の桜が散り始めたことぐらいだ。まったく、退屈な日々を送っている。

駅裏の小学校の脇を抜け、やたら傾斜のある坂道を越え、角のコンビニを右に曲がる。そこから5分ほど歩いて、2つめの信号を左折すると僕のアパートが見えてくる。ごく平凡な2階建てアパート。
駅を後にし、坂道を上りかけた頃だろうか。遠くのビルの屋上に黒い影が見える。茶色のタイルが張り巡らされた5階建てのビル。ところどころ、タイルに傷や破損箇所が見られ、重ねた年月を感じさせる。あの影は男だろうか、女だろうか、いや、そもそも「あれ」は人なのだろうか。勝手な妄想に浸り、自宅に向けて歩を進めていると、遠くの影が突然、落ちた。