涙の欠片


自分の部屋に駆けあがりテーブルの上に置かれてある白のリストバンドを左手首に嵌(は)め、携帯と小銭を取りミニスカートの窮屈なポケットに押し込み無造作に置かれているタバコとライターを掴み部屋を出た。


「おねぇちゃん…」


背後から聞こえてきた声に肩が上がり後ろを振り返る。

奥の部屋から聖梨香(せりか)が目を擦りながら近づいてくる。


「どうしたの?」


聖梨香は眠そうな目を擦りながら首を振り「トイレ」と言って、あたしの横を通り過ぎて行く。

腰まである真っ黒なストレートの髪をサラサラとさせながら聖梨香は階段を下りていく。その後ろ姿は嫌味なぐらい、あたしには羨ましかった。

小学3年生の聖梨香の髪は純粋で綺麗なままだ。

あたしの小学3年生の頃は、もう金色だった。それは、母が染めていたからだ。


胸まである髪を人差し指ですくい上げ目を向ける。

ブラウンの緩く巻いた髪…痛みまくっていた髪も漸く落ち着いた。