涙の欠片


一馬の所まで行くと一馬は壁から背を離し階段を下り、あたしもその後を着いて行く。

駐輪場まで来ると一馬は銀色のチャリを埋もれている中から取り出した。


「チャリでわりぃな」

「ううん。いつもチャリで来てんの?」

「いや…原付」

「じゃあ、何で今日はチャリなわけ?」

「お前を送る為」


“早く乗れよ”

そう付け加えて一馬はサドルに跨る。

立ち尽くして何も動かないあたしに「おい」と一馬の低い声が飛ぶ。



一馬があたしを送ってくれる理由が分かんない。

何でそんな事すんのか分かんない。


「…何で?」


一馬を見ながら低く呟くと「あ?」と言ってあたしに目を向ける。


「何であたしを送んの?あたし一人で帰れるし」


一馬は自転車から下りて一息吐き、ズボンのポケットからタバコを取り出した。

口に咥えて火を点けた後、顔を顰めながら空を仰ぐ。


「頼まれた」


一馬はタバコを口に咥えたまま、そう呟き深く煙を吐き出す。


「頼まれたって何?…誰に?」


「…―――リュウさんに…」