涙の欠片


鍵も何も持って出ていなかったあたしは家のチャイムを何度も押す。

非常識って事ぐらい分かるけど、今はそうするしかなかった。


まだ朝の5時。

お母さんは居ない。お父さんと聖梨香だけ…


しつこくチャイムを鳴らして暫く経った後、ガチャと鍵が開く音がしてドアが開いた。

開いた隙間からお父さんの不機嫌そうな顔が現れた。


「何してんだ」


お父さんは眉間にシワを寄せて声を掛ける。


「…ごめん」


そう言って、あたしは父の横をすり抜け自分の部屋へと向かった。

クローゼットの中にある白色の貯金箱を取出し打ち壊す。

今まで一度も壊さずに貯めていたお金が中から大量に飛び散った。


あたしはそれを巾着袋に全部詰め込み、携帯と一緒に鞄の中に詰め込む。


コートを羽織って階段を降りると「何処行くんだ」と父の呆れた声が飛んできた。


ため息ばかり吐く父に「ちょっと…」とだけ告げて、あたしは家を出た。

停めておいたタクシーに乗り込み、あたしはすぐに行き先を告げた。


暫く走った後、目的地に着きあたしはタクシーを下りて目の前にある何段もの階段を見上げて白い息を吐く。

冷たい風でかじかみそうな手で、履いていたブーツを脱ぎ捨て素足になって階段を一段一段上る。