涙の欠片


目が合った瞬間その男はニコッと笑う。


「怪我しなかった?」


その視線から目を逸らしコクンと頷く。


「ごめんね。アイツすげぇ気おかしくなってて…。アイツからぶつかってきたのにゴメンね」


丁寧に謝ってくる男は、あの男とは違う感じがした。でも、それは話し方だけで、どう見てもこの男もイカツイ。

茶色のサラッとした髪を乱暴に掻き「アイツ…」と声を洩らしながらその男へと目を向ける。

その男の目付きにビクッと肩が上がり、あたしは恐る恐る口を開く。


「あ、あたし大丈夫ですから」


小さく出した声を受け取ったのか目の前の男は「アイツ後で殴っとくから」とさっきよりも低い声を出し、うっすら笑ってあたしに背を向け歩き出した。