涙の欠片


「この人、馬鹿だからダブってんだよ」

「あー…何となく分かってました」


あたしが小さく呟くと前から「馬鹿じゃねぇよ。行ってなかっただけ」と翔平の怒った声が飛んできた。

「だから馬鹿じゃん」

「お前なぁ、ダブってんのは俺だけじゃねぇぞ。リュウもだぞ」

「あっ、リュウには言えないよ。こんな事言ったら殺されちゃうからね」


ハハッと笑う女の人を見て思わずあたしにも笑みが零れる。


暫く走って大通りの駅前に着き、車は停車すると女の人は車から下り顔だけを覗かせあたしに目を向けてきた。


「えっと、恵梨菜ちゃんだったよね?」

「はい」

「今度さ、ケーキ食べに行こうよ。あたし美味しい所知ってんだ。良かったら一緒に行こ?」

「あっ、はい」

「あたし麗(れい)って言うの。宜しくね。あっ、翔平サンキュー」


そう言って手を振ってドアを閉め、綺麗な黒髪をなびかせながら麗さんの姿は人混みの中へ入って見えなくなった。


翔平は一度バックし車を発進させる。


「恵梨菜ちゃんゴメンね。余計な遠回りさせて」

「ううん」

「アイツ口うっせぇけど、人としてはすげぇイイ奴だから」


きっと翔平が言うのだから麗さんは凄くいい人なんだろう。

って言うか麗さん見ただけで、そう言う雰囲気があたしにも伝わってきた。