多香子が顔を離すと、弟の不思議そうな顔が目に入る。


―――まだ、早過ぎたかな…


「室長。成二の治療をします」


「えぇ、お願いね」


救護班の三澤和弥[ミサワカズヤ]が、チームと一緒に成二の治療に掛かる。


多香子が一歩下がると、千鶴が難しい顔をして近寄って来た。


―――…怒られるかも。


「…早過ぎよ、あんな事を言うなんて」


少し不安げな声が聞こえる。


「うん、知ってる」


千鶴がとっても大きな溜息を吐いた。


「アイツが未だに親の死を引きずってるのは知ってるでしょ?そのせいで、言葉を話せなくなったじゃない!眼の前で親が死んだ事を、アイツは自分が殺したって思い込ん…」


「…知ってる」


―――あの日の事を話すのは、私だって気が引けるけど…過去は変えられない。


「過去は背負うしかないよ、千鶴。…例え、自分の手で父さんと母さんを殺したって事でも…」