「ううん、無理なんてしてないよ」
一哉の手を握り締めた私は
初めて嘘をついた。
高校生の頃は、何でも言えたのに。
その相手は一哉
『先生』だったのに……。
「なら良いんだけどさ」
私に笑顔を向けた一哉は、安心したように息を吐いた。
ごめんね、一哉。
いつかまた、素直になるから
前みたいに何でも話せるようになるから……。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
微笑み合い、繋いでいる手を離そうとした時、ガラガラッと扉が開く音が聞こえ、
私の心臓は大きく音を立てた。
その音は、
聞き間違えることのない交番の扉の音。

