「あ……ごめんなさい」
私の鞄の中から、携帯の着信音が鳴り続けてる。
「いいよ。出ておいで」
「う……うん」
おまわりさんは、私の頭にポンっと手を乗せて優しく微笑んだ。
突然心の世界からリアルな世界に引き戻された私は、
顔を赤く染め、少しよそよそしくおまわりさんから離れた。
なんだか凄く恥ずかしい。
心の体温が下がりきってないのに、何もなかったように電話に出なきゃいけないなんて……。
いや……
正確には何もなかったんだけど……。
鳴りやまない携帯を鞄から取り出し、着信相手の名前を見た。
公衆電話……?
私は恐る恐る声を出した。
「もしもし……?」
あれ? 返事がない。
もしかして悪戯電話……?
そう思いながら、もう一度口を開こうとした時、
今にも消えてしまいそうな声が聞こえてきた。
『美……樹……』